労働・社会保障の向学ノート

労働・社会保障勉強のための覚え書き

「農業は残業代ゼロ」おかしい養鶏社員が勤務先提訴へ [朝日新聞より]|の考察

記事サマリ

  • 労働基準法の規定を理由に、時間外手当、及び割増賃金を支払わない会社に対し、当該会社従業員が福岡地裁に提訴(予定)。
  • 当該従業員が主張する未払となっている時間外手当、及び割増賃金は約970万円、時間外手当を支払わなかったことによる付加金は約700万円。
  • 当該従業員の業務は、コンピュータを使った鶏卵に関するデータ管理。
    (出所:2019-07-22 朝日新聞Digital)

 

関係すると思われる法令等

  • 労働基準法 第41条 (労働時間等に関する規定の適用除外)

この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一  別表第1第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者(別表第一 七|動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業)

  •  同法 第114条(付加金の支払

裁判所は、第20条※、第26条※若しくは第37条※の規定に違反した使用者又は第39条第6項※の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から二年以内にしなければならない。(※第20条 解雇予告手当、第26条 休業手当、第37条 割増賃金、第39条第6項 年次有給休暇中の賃金)

 

 

法令解説

  • 前記法41条の「別表第1第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者」とは、農業又は水産業等の事業に従事する労働者について規定しているが、これはこの種の事業がその性質上天候等の自然的条件に左右されるため、法廷労働時間及び週休制になじまないものとして適用除外とされたものである。(引用元:「平成22年版 労働基準法 上」(労基法コンメンタール厚生労働省労働基準局編) 

 

考察

  • 当該従業員は、鶏卵に関するデータ管理業務に従事していたことから、前期コンメンタールの「その性質上天候等の自然的条件に左右されるため、法廷労働時間及び週休制になじまないもの」に該当するとは言い難い。この点が裁判所でどう判断されるか。
  • 当該鶏卵会社には、農場で鶏卵事業に従事する従業員と事務所内で事務作業に従事する従業員が存在すると思われ、今回訴えを起こした社員は後者であると推察される。参考として、労働者災害補償保険法では、建設業は、現場作業員と本社等の事務作業員は同じ会社に所属していても従事する業務を別に扱い、保険料の料率も別に扱う。(現場作業員と事務作業員とでは、労災の被災リスクが異なるため。)今回の場合では、如何様に扱うのが適当なのか。 

 

補足

  • 前記の通り、法41条該当者は、「労働時間、休憩及び休日に関する規定は、(略)適用しない」扱いとなるが、労基法では労働時間と深夜業は別々の規定と取り扱うことから、法41条該当者でも深夜業に関する各種規定は適用除外にならないことに注意を要する。(法第61条(深夜業)等)